今月も、妄想あさこ食堂へようこそ。gozenのメンバー兼スタッフ(コンテンツクリエイター)のAsakoです。

「妄想あさこ食堂」とは
gozenのコミュニティメンバーさまが主人公となった読み物です。その方の暮らし方や考え方を覗き見ることで、新しい視点を見つけたり、勇気や力、ヒントが得られるかも!コラムの最後には「もしこの主人公が、架空のあさこ食堂に来てくれたら」を妄想しながら、メニューを考えておもてなし。時にはレシピもシェアします。

今月はシンガポール在住のゆかりさんをお迎えします。

ゆかりさんは、お父さんの海外赴任をきっかけに短大卒業後にシンガポールへ。赴任生活を終えた家族は数年で日本に帰国するも、ゆかりさんはシンガポールで出会った子どものためのアートクラスの仕事を続けるためにひとり残り、そうしてシンガポールでの生活は23年になるという。

アートが結ぶ縁

幼いころから絵を描いたり、ものを作ったりすることはずっと好きで、高校や短大の美術の授業で油絵に集中して取り組んではいたけれど、日本に居た頃はそれほど縁がなかったアートの世界。シンガポールで妹さんが通っていた絵画教室で、自身も油絵や絵を学びながらアシスタントの仕事に就いたことをきっかけに、ゆかりさんのアートと共に歩む人生が始まる。それまで日本で専攻してきた幼児教育も活かせる、子ども向けのアート講師となったことを始まりに、 更にアートを深く学ぶためシンガポールのアートスクールで3年間の学びを経て、幼児教育の経験をさらに積むため幼稚園教諭の仕事にも就いてきた。

そんな折に出会ったのが、今の旦那さん。アートスクールで版画専攻だったゆかりさんが、とある版画工房の刷り士だった旦那さんと出会い、彼の作品に感銘を受けたのが馴れ初めのきっかけだった。

動物や植物といった自然をモチーフにしたストーリー性の深い当時の彼の作品。独身で30歳を目前に控え、孤独感や将来への不安を抱えていた最中に彼が描いた絵を見た途端、いつか運命のひとに出会えるのかなと思えて涙が溢れたという。そうして出会った旦那さんと結ばれ、温かな家庭を築いてきたゆかりさん。なんてドラマティック!ときめき溢れるストーリーに、目がハートになって心躍るわたし。笑

葛藤と、手放し

中華系シンガポール人の旦那さんとの結婚生活、最初は文化や価値観の違いからさまざまな葛藤があったのだそう。結婚後に12歳と4歳の男の子を授かり、パートタイムながら産休を取得しつつずっとアート講師の仕事を続けてきたゆかりさん。共働きの生活、産後に育児のサポートを受けるべく旦那さんのご両親との同居生活を経験し、食文化の違いに辟易することも、お国柄盛んな外食文化にもっと頼ればいいと勧めてくれる旦那さんとの意見の違いに戸惑ったこともあった。

そうして始まった3年前のコロナ禍が、ゆかりさんの働き方や職業観だけでなく、家族や自身の価値観を見つめ直すきっかけとなる。

自分の仕事や肩書きを一旦横に置いて、まだ幼い次男をはじめ家族を中心に据えて過ごす時間。人生で初めて専業主婦となり、これまでパートタイムとはいえ頑張り過ぎていた自分に気付いた。と同時に、これまで目一杯頑張ってきたからこそ肩書きのない不安や喪失感もあり、モヤモヤした時期もあったのだという。

偶然にも同時期、同様にキャリアを手放したわたしは、ゆかりさんの話に強く頷く。コロナ禍って、これまでのさまざまな見直しに必要不可欠な時間だったんだと思う。いまはそう思えるけれど、そこまでは様々な葛藤があったよね、と共感する。

本音に向かい、得られたこと

外遊びより勉強メイン、2歳児から通園するケースが主流だというシンガポールの幼稚園事情。そんな中で自然派育児のコミュニティに出会ったゆかりさんは、活発で外遊びが好きな次男のためにコミュニティ仲間と自主保育メインの数年を過ごしてきた。専業主婦だからこそ叶えられた豊かな時間、自然に触れ合える公園でピクニックをしたり、みんなでアート遊びをしたり。自由にのびのびと遊ぶ子どもたち、それを見守りつつお喋りに華を咲かせたり、ときには子育て中の悩みを打ち明け合うこともあったお母さんたち。その時間に子どもだけでなく、ゆかりさん自身がずいぶんと救われたそう。

同じ価値観を持つ者が集い、交わす会話や交換するエネルギーはきっと、他には代えがたい明日への活力になるもの。そうした時間を通して内観を繰り返し、自分の思考を整理してきた。周りと比較して自己嫌悪に陥る癖や、自己犠牲をよしとする思考パターンを手放したら、次第に本当にやりたいことが見えてきたのだという。

そうして今年、数年ぶりに美大時代の友人に誘われて作品を発表する場を持てた。一歩踏み出せたからこそ、今後もっと作品を作り発表していきたい、という言葉がゆかりさんの口から自然とこぼれてくる。

来年からは次男が楽しめそうな幼稚園への入園も決まった。それにより自分の時間に余裕が出来るからこそ、この育児期間にゆかりさん自身を大いに救ってくれた自然派育児の時間を大切にしていきたいのだとも話してくれた。自然の中でのアートのワークショップや、子どもの感性を最大限に発揮できるようなクラスを開催したい。きっと、これまで講師として子どもの無限の可能性や鋭い感性を見守り続け、さらに自然の中での育児の貴さを肌で感じてきたゆかりさんだからできる、唯一無二のクラスになるんだろうな。ゆかりさん自身が救われたように、その時間だから育まれる母子の豊かな時間があり、それは家族に、いずれ社会に循環するのだろうと思う。

手放し、迎え入れること

仕事、家族、家事や育児、日々の生活で多くの葛藤を経てゆかりさんが感じているのは、日本のお母さんは本当にすごい、ということ。義両親との同居生活を通して育児において人手の多さがいかに有難いかが分かったし、働きながら家事育児を一人で全うすることの大変さも痛感した。全てをひとりで完璧にこなすこだわりは手放してもっと外からの助けを受ければいいし、完璧でない自分を周りと比べ凹む必要などさらさらない。

核家族かつ、共働き家庭が多い日本社会だけを見ていたらなかなか気付けない視点。目から鱗、と同時に肩の力がすとんと抜ける気分になる。

現状に固執せず、その時々の状況に応じて軽やかに不要な習慣や価値観を手放していく。自分の本音に都度向き合い、本当に欲していることや自分を幸せにする思考だけを選択していく。ゆかりさんの周りをふんわり包みこんでくれるような笑顔は、そうして丁寧に自分の気持ちを見つめて暮らしてきた賜物なんだろうな。そして彼女の言葉は柔らかで、聞いた者の胸を打つだけの説得力がある。

手放すから、空いたところに迎え入れられる。柔らかに軽やかに流れに乗っているひとって、無敵だ。それが、ゆかりさんが体現している大事なメッセージのように思えた。

今月の妄想あさこ食堂

ゆかりさんをお迎えした今月の妄想あさこ食堂は、昼下がりのクリームシチューランチ。市販のルーもコンソメも使わないクリームシチューのレシピをベースに、白菜や里芋といった冬の旬をふんだんに取り入れたシチューをメインに。

というのも、ゆかりさんの話を聞きながら浮かんできたイメージカラーがアイボリーホワイトだったから。これまでの歩みや葛藤、今後への展望、どんな話も終始柔らかで穏やかな笑顔で話してくれたゆかりさん。優しくまっさらで、そしてどんな色にでも変身し得るゆかりさんの雰囲気を思い出していたら、一緒にこんな優しくて奥深い味わいのクリームシチューを食べたくなった。

サイドディッシュには、さつま芋とクリームチーズのハニーマスタードマリネと春菊の干し柿のナッツサラダを。わたしのお気に入りパン屋さんの天然酵母バケットを添えて。

ランチだけど、たまにはいいよね。って目くばせしながら綺麗なロゼワインを開けちゃったりして。昼間からご機嫌でこれから広がるゆかりさんの未来への構想や、23年も暮らしてきたからこそ分かるシンガポールの魅力について、もっともっと聞いてみたいな。

このコラムに出てきたレシピ