今月も、妄想あさこ食堂へようこそ。gozenのメンバー兼スタッフ(コンテンツクリエイター)のAsakoです。

「妄想あさこ食堂」とは
gozenのコミュニティメンバーさまが主人公となった読み物です。その方の暮らし方や考え方を覗き見ることで、新しい視点を見つけたり、勇気や力、ヒントが得られるかも!コラムの最後には「もしこの主人公が、架空のあさこ食堂に来てくれたら」を妄想しながら、メニューを考えておもてなし。時にはレシピもシェアします。

今月は、ドイツのアーヘンにお住まいのあきさんをお迎えします。

あきさんは、ヴァイオリンの勉強をするために日本を出てから27年、イギリスやオーストリアでの数年を経て住み始めたドイツでの生活も、20年を超えるそう。

好きなことが、始まるきっかけ

音楽は聴くのは好きだけど昔から弾くのは苦手意識があって、わたしにとってはあまり馴染みのない世界。だから音楽の本場、ヨーロッパへ留学をするまでに至った経緯や心意気が興味津々だった。

4歳からピアノを始めたあきさん。教師だったお母さんご自身が、学生時代に教職を取るためにピアノを始めてお子さんが生まれてからもピアノを続けていたため、あきさんも幼いころからお母さんのピアノレッスンに同行していたことを覚えているそう。お母さんが弾くピアノの音色を聞きながら、レッスンが終わるのを待つあきさんと、その足元をハイハイする弟さん。そんな些細で温かい日常が、あきさんの記憶に残ってる。その光景を想うだけで、わたしまでじんわりと温かい気持ちになる。そしてヴァイオリンデビューはその後の10歳のとき。弟さんが先に始めていたヴァイオリン、レッスンに同行するたびにやってみたくてご両親にねだって叶えてもらった。

好きなことを、深める時間

転機は13歳のとき、ユースオーケストラ団の一員としてヨーロッパを周遊した経験だった。同世代で同じ価値観を持つメンバーと一緒に過ごす時間、ホストファミリーとの生活や海外のオーケストラとの共同セッション、初めての海外で経験した言葉なくとも音楽を通して意思疎通できる悦び。その記憶が高校・大学と日本の学校で学びながらも、どこかでいつかはもっと広い世界に出るのだと思い続けることに繋がったのだという。思春期、多感な時期に好きなことを思いきりできることがどれほど貴いか、あきさんの経験が物語ってくれる。

大学卒業後に向かったイギリス、最初はヨーロッパへの音楽留学も短期間で終わる予定だったそう。でも一たびその豊かな音楽の学びの場に身を置いてしまうと、手放すことは考えられなくなった。宗教と共に生活と密着して存在し、学びも演奏のチャンスも日本よりずっと選択肢が多くて、たくさんの人びとに楽しまれている音楽の世界。

子として、母に想われること

そうして気が付いたら海外での生活が人生の半分を超えた。そんなあきさんの音楽への熱意と海外生活への憧れを、ご両親は一度も反対することなくずっと応援してくれたそう。イギリス時代に知り合ったドイツ人の旦那さんとの間に2人のお子さんを授かり自身が親となり、海外へ我が子を送り出す親の気持ちを振り返って遠い目になるあきさん。きっと心配もあったと思う、だけどわたしの性格を良く知っている母は、そのまま日本へ帰ってこないと薄っすら分かっていたんじゃないかな、と振り返る。

お母さんと一緒にピアノを弾く幼いあきさん、念願のヴァイオリンを手にして熱心に練習するあきさんとそれを見守るお母さん、ユースオーケストラに参加するために週末ごとに行われる勉強会や練習会にお母さんと一緒に向かうあきさん、そうしてヨーロッパに発つあきさんを見送るお母さん。あきさんの静かで優しい口調でお母さんを交えた昔のエピソードが語られるたび、わたしの妄想スイッチが作動して止まらない。なんて温かくて柔らかな記憶にあきさんは支えられているんだろう。

現在はアーヘンの街でヴァイオリンの先生として活躍されているあきさん、大人向けのクラスだけでなく、ドイツの小中学校の外部講師としての顔も持つ。自分がこれまで親しんできたヴァイオリンの世界の楽しさを、周りへ、そして次世代に伝えていける仕事。ご両親が支えてくれたあきさんの音楽への熱意は脈々と繋がり、広がっている。

母として、子を想うこと

ひとつ決めたら真っ直ぐ、なあきさんの性格は食のスタンスにも表れる。昔から悩まされてきたアトピーを、ドイツに移住してから知ったナチュラルフード療法で改善が見られてから、小麦や卵といったアレルゲンを除去する食生活に。そんな折に偶然にも検索でヒットして見つけたともよさんのレシピが、あきさんの食生活をさらに豊かにしてくれたそう。

以前はご自身だけで楽しんでいたナチュラルフード、数年前に息子さんがアトピーや膠原病を発症したことでより学びを深め、家族みんなの生活に取り入れるようになった。日常の食生活で体質を改善していくことは一朝一夕では叶わないから不安になることも、息子さんの体質を自身のせいかもと責めてしまうときもある。でも一度自分自身を改善してきたという自負があきさんを勇気づけてくれている。

息子さんのことを話してくれるあきさんの表情は、とてもとても優しかった。ときどき憂いの表情になるのがまた、愛情の深さを物語っているようでキュンとする。会ったことのない息子さんとあきさんの食卓の様子が目に浮かんで(誰か止めてくれわたしの妄想スイッチ)、そしてそんな優しい眼差しはきっと、あきさんのお母さんとのかけがえのない遠い記憶からもたらされているような気がしてならなかった。

母子って、いいね。あきさんと話していたら、わたしも母の声が無性に聞きたくなった。

妄想あさこ食堂へようこそ

あきさんをお迎えした今月の妄想あさこ食堂は、わたしの実家で先日収穫したばかりの新米を囲むお昼ごはん。長い海外生活、日本への帰国はお子さんの長期休みに合わせて夏が多いと聞いて、久しぶりの秋の実りを堪能してもらいたくて、新米を目いっぱい楽しめるメニューに。

精米したての新米の美味しさを存分に引き出せるよう土鍋で炊き上げ、今秋の無事の収穫に感謝と敬意を示して。

いりこ出汁の赤だし、そして添えたおかずたちは白ごはんがぐんぐん進むもの、なす味噌炒め牛肉のしぐれ煮。箸休めの春菊と柿のおろし和え、旬の素材で小さな秋を感じてもらえたらな。

新米が今日のメインだからぜひお替わりをしてほしくて、2膳目用には梅干しや辛子明太子、蕪の浅漬けといったごはんのお供たちも。

日本の秋の食卓を楽しみながら、インタビューのとき興味津々だったドイツの教育事情や、生活の中での音楽の楽しみ方をあきさんからもっともっと聞きたいな。いっそ、新米背負ってドイツまで遊びに行こうか、なんて妄想は広がるばかり。

このコラムに出てきたレシピ