みなさん、こんにちは。ベルリン在住の料理研究家、島崎ともよです。今日は、メンバーさん限定レシピ『りんごのクランブル』のレシピをご紹介します。

イギリスにホームステイをしたときに、ホストマザーが何度も作ってくれたりんごのクランブル。クランブルというのはイギリスを起源とするお菓子で、今回は、そのレシピを継いだホストシスターから教えてもらったものに、少しアレンジを加えています。

「世界を旅するレシピ」と題して、イギリスで思い出す若き日の思い出と共にお送りいたします。

世界を旅するレシピとは…
私、島崎ともよが、これまで旅で出会ったごはんや、外国人の友人から教えてもらったお料理を再現したりアレンジしたレシピをお届けする企画です。旅の思い出や、友人との記憶に残る会話なども交えながら、読んでいるみなさんも世界を旅しているような気分になれるようなレシピコラムをお届けします。

高校生の頃、イギリスにホームステイに行った。その頃は怖いものなし!で、英語もろくに話せないのに、何一つ不安を抱えないまま空を飛んだのは、今思い出すと結構すごいと思う、

ロンドンに着くと、同行してくれたスタッフが「お願いする予定だったホストファミリーが急遽ダメになった。新しいホストを探すね。」と申し訳なさそうに話してきた。一緒に行った仲間等は心配して声をかけてくれたが、当の私は『なんとかなるでしょ。』とあっけらかんとしていたのは今もよく覚えている。予想通りあっけなく新たなホストが見つかり、急遽お迎えに来てくれることになった。

警察官のお父さん、チャイルドマインダーのお母さん、一個下のホストシスターとその弟。そして警察犬並みに躾されたラブラドールのジェットがいるお宅にお世話になることになった。

「急いで準備したから足りないものもあるけど」という割に、整った可愛らしい壁紙の部屋に心が躍った。少し前に、ホームステイしていた日本人の女の子が帰国したばかりらしい。

その夜のデザートに出てきたのは、りんごのクランブルだった。小麦粉、お砂糖、バターで作るそぼろ状の生地を、一口サイズに切ったりんごの上に乗せて焼いたもの。みたこともない大きな耐熱皿で焼き上がり、既に満腹の私の目の前にこれでもかと山盛りになったりんごのクランブルが置かれた。しかも、バニラアイスもたっぷり乗せられて。

言葉なんてほぼ通じないけれど、食事の時間だけは「おいしい!」という言葉だけでなんとかなる。ただ、ここでは「おいしい!」を連発していては危険だと初日で学んだ。

ホストマザーは、このレシピにはこだわりがあると話していた。当時は理解もできず、レシピを教えてとも言えるわけもなく、ただ横で見ているだけだったが、楽しそうに作っていた顔は今もよく覚えている。

日本に帰国してからも、その後アメリカ留学した時も、就職してからも、ドイツに移住してからも、彼らは毎年必ずクリスマスカードやプレゼントを贈り続けてくれている。もう今年で20年。急遽決まったホストファミリーは、本当に素敵な家族だった。

優しく愛に満ち溢れたホストマザーは10年前に天国へ旅立った。狙った訳ではないが、蓋を開けてみたら、ホストマザーとうちの娘は同じ名前になった。きっとこれも何かの縁だろう。

数年前、ホストシスターから思い出の「りんごのクランブル」のレシピを伝授してもらった。粒があまり大きくないクランブルで、サラッと軽く食べられるのがお母さんのこだわりなのだそう。だからお腹がいっぱいの食後のデザートにも、スルスルっと入るのよ、って。